事実という不安  Category: 不思議坊主研究所

Posted at 08/07/20 Comment(0)» Trackback(0)»

「お母さん、おはよう。」
長男がしがみつくようにして、ワタシの隣に座った。

「ボク・・・。
今日、お父さんとお母さんに怒られる夢、見たよ。」
「そう。昨日はゴメンね。母さん怒りすぎた。」
「ううん。いいよ。ボクが悪いんだから。」

そう言って不思議長男は複雑な笑顔をした。
ワタシは彼を膝に座らせてから、キュッと抱きしめた。

「ゴメンね。大好きだよ。」
「うん。解ってる。」

******************************

夏休み初日の昨日、ダディは仕事に出かけていた。
ここのところ疲れ気味の強妻頑母は頭痛がひどかった。
「僕らは人生ゲームするから、母さんは寝てたら?」
と3兄弟が言ってくれたので、
お言葉に甘えて2階のベッドルームで横になった。

その直後のことだった。
ウトウトとし始めたばかりのワタシの元に
頑張ル次男がやってきたのは。


「母さん・・・」
も〜う、な〜に、何なのよ、休ませてくれないの、
そう言おうとしたのだが、どうも様子がおかしい。

「母さん、あのね、ゲームしてたらケンカになってね、
それで、天然がふて腐れてね、お兄ちゃんが怒ってね、」
なんだかゴチャゴチャと言い続けていたので
ワタシのボーッとした頭ではなかなか理解できなくて、
ハッキリと言いなさいと言おうとしたその時、
彼の口からやっと、驚くべき事実が飛び出した。

「で、兄ちゃんの投げたバランスボールが、
天然の背中に当たって跳ね返って、
テーブルの上のコップに当たって割れた。」

その時初めて気が付いた。
しっかり者の彼にもなかなか説明できないような事が、
ワタシの居ないリビングで起こったのだろうと。

 


慌てて階段を駆け下りと、「違う!聞いて!」
と先に言い訳を聞いてもらいたい不思議長男が居て、
その向こうに、割れたグラスの破片が飛び散っていた。

しかも、かなりひどい割れ方だ。

その状況を見たワタシは、何かひとつでも違えば
コレどころではない事態になる可能性があったことを
一瞬で把握した。
そして、その恐怖と怒りであり得ない声で叫んだ。

「何してるのよ!」

 


どういう理由なのか、どういう経緯なのかはしらないが、
長男が腹立ち紛れに投げたバランスボールは
ソファの前に居た天然三男の背中に当たり、
2メートルほど大きくバウンドして
そのままテーブルの上のグラスを直撃したらしい。

グラスはボールが当たった衝撃で割れて、
そのまま壁際の書棚の前に吹っ飛んだようで、
書棚の前に沢山の破片が落ちていた。

そして怖ろしいことに、そこで扇風機が回っていた。

テーブルの上には少量の極小さなガラスの破片しかなく、
その幾つかがテーブルに傷をつけているところを見ると
かなり強い力が加わったであろうことは容易に想像できた。

つまり、こうだ。
もしそこに…テーブルの上にグラスが無かったら、
ボールはテーブルの上で更に大きくバウンドし、
書棚のガラス扉を直撃したかもしれない。
回っている扇風機の上にガラス扉の破片が降ると
いったいどうなっていたんだろう。

想像しただけで、気が遠くなりそうだった。

 

いつかこういうことが起こるかもしれないと
どこかで予想していたにもかかわらず、
恐怖とか怒りとかショックとかをゴチャ混ぜにした
なんとも言えない感情を、ワタシは押さえきれなかった。

「何なのよ! どうしてくれるのよ!
何をしたか自分でわかってんの?!」
自分でも驚くほどの金切り声で
ヒステリックに叫び、そして彼を叩いてしまった。

長男も怒って大声で叫ぶ。
「もういいから!言わないで黙ってて!
どんな事か解ってるから!」

それでも、ワタシは何かを叫び続けていた。

それは、グラスが割れたことだけでなく、
起きたかもしれない事態への恐怖のせいでもなく、
彼の個性に対するのやりきれない想いを
一気に吐き出しているような、そんな気持ちだった。

それが良くないことは、十分に解っていた。
支援とは全く逆行していることも。

だけど、その時は自分自身をどうしようもなかった。

 


長男には、多動性や衝動性はあまり見られない。
だから学校で、授業中に動き回ったりすることもなく、
突然に誰かに手を出したりすることもない。
それゆえ、障害が理解されにくいという難しさがある。

でも、
多動性や衝動性が全くないかと言われれば、そうじゃない。

だから、ひょっとするとコレまでの心の病の経験などから、
それらを押さえ込む術を身につけているのかもしれないと、
いつかそれが出てくるかもしれないと、ずっと不安に思っていた。

というのも、長男は弟たちに対しては切れやすく、
叩いたり蹴ったりすることも多いからだ。

モチロン、男兄弟の間ではどこでもあることだが、
彼の場合にはときどき、そのタイミングや力の加減が
「普通」ではないような気がしていたのだ。

 


そんなことを想いながら叫び続けたワタシは、
何だかとても言いようのない気持ちになった。

そこら中に飛び散ったガラスを拾い、
掃除機を丁寧に丁寧にかけてから
ボロ布で拭き取る作業を繰り返していると、
泣けてきて、何も言いたくなくなった。

しばらくたってからやっと顔を上げ、
コレがどういうことかなのかを説明した。

でも結局、夜まで優しい母さんには戻れなかった。

そして、事が事だけに
帰宅したダディからも3兄弟に厳重注意があった。

 

で、夢にまで出てきたというわけ。

 


子育てについても支援についてもアレコレと学び、
できるだけそれに近づくために爆走している。
でも、心の奥底にある小さな不安と恐怖が
ワタシの中から消えることはない。

ワタシはどこまで行っても強妻頑母である。
この日常も、良妻賢母になれない理由のひとつ。

 

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